瀬戸内国際芸術祭2016
瀬戸内海の島々で三年に一回開催される、瀬戸内国際芸術祭の夏期に行ってきた。
ベネッセハウスミュージアムで有名になった直島をはじめ、10近い島々に現代アート作品が展示されている。
「今、世界のグローバル化・効率化・均質化の流れの中で、島々の人口は減少し、高齢化が進み、地域の活力の低下によって、島の固有性は失われつつあります。
私たちは、美しい自然と人間が交錯し交響してきた瀬戸内の島々に活力を取り戻し、瀬戸内海が地球上のすべての地域の 『希望の海』 となることを目指し、瀬戸内国際芸術祭を開催します。」というのが、芸術祭のコンセプトらしい。
僕は芸術や美術館は好きだけど造詣はないので、作品の細かい解釈は他のサイトや本に譲るとして、ここでは僕の印象に残った作品を紹介したい。
これらは、「見る」よりも「聞く」ことを求める作品だ。
一つ目は豊島美術館。
豊島の小高い丘の中腹に立地している。
たまごを薄く広く引き延ばしたようなホールで、天井にはぽっかりと二つの穴が空いている。中はバスケットボールのコート二面を並べたよりも広い。
美術館とい銘打ってあるが絵画などの作品は何も展示されていない。広い床のところどころに水がたまっていて、穴から入る風に従って水玉が流れ出している。
人々はホールの中で歩いたり、寝そべったりしている。
美術館というよりは、不思議な空間。
ここの特徴は、何より音がめちゃくちゃ響く。
誰かがスマホを落とすと、カシャンという音がホール全体に響き渡る。
僕が咳をすると、遠い端まで響いていた。
人々は音を立てないように、不要な声を出さないように気をつけているが、どこかで音が鳴り響いていた。
二つ目はささやきの森。
豊島の唐櫃岡地域の山奥の開けた場所に、数百個の風鈴が地面から伸びる細い棒に取り付けられている。
ひとたびそよ風でも吹くと、風鈴が一斉に響き渡る。
まぁ、夏で山奥だったので蝉の鳴き声の方がうるさかったんだが・・・
三つ目は心臓音のアーカイブ。
唐櫃浜の浜辺にある小さな小屋だ。
中は暗室になっていて、世界中の人から集めた心臓の鼓動音が鳴り響く。
鼓動に合わせて朱色の照明が不気味についたり消えたりする。
これらの作品から聞こえるのはどれも日常に存在する。
ただし、どれも耳をすませないと意識して「聴けない」ものかもしれない。
そこで芸術作品がある意味でアンプリファイア(増幅器)となって、日常を非日常化させ、僕らの耳に、心に意識的に到達する。
「日常で聞こえるけど聴いてないものに耳をすませてみては?」という芸術家たちの提言にも思える。
都会から一日かけて小さな離島に来た僕は、なおさらそう思う。